アメリカ国民にとってのアメリカ大統領選挙

smallworldjp2004-11-17

大統領選挙が終わった。結果だけを見ればブッシュの圧勝である。ご存知の通り、アメリカの大統領選挙は選挙人方式をとっている。各州ごと選挙人の人数が決まっており、その州で勝利を収めた政党が全議席と大統領への投票権、つまり選挙人を獲得できるシステムだ。最終的な選挙人獲得数は大統領が286、民主党のケリー上院議員が252で確定した。当選が確実になったのはオハイオ州でブッシュ氏が勝利を収めたからだった。残ったニューメキシコアイオワでも共和党が勝利している。

アメリカ国民のための選挙であった。投票者が合衆国国民でなかったらケリー候補が勝利していただろう。ヨーロッパでのブッシュ氏の支持率は米国に比べて圧倒的に低い。同盟国として、自衛隊を派遣している日本ですら、支持率ではケリーにかなわなかった。アメリカ人はアメリカ国内のことを必死に考えている。911以降、テロとの戦いを打ち出せば、支持率はグンと上がる。イラク大量破壊兵器(WMD)の脅威を示せば、また支持率は上がった。ブッシュ・ドクトリンを武器にテロとの戦いをアピールした。戦争終結後(実際には終結していない)に大量破壊兵器の根拠が最後まで見つからなかった。それでもブッシュは当選した。やはり、何かが違う。アメリカ国内と他諸国ではあまりにも温度差がありすぎる。

選挙前にはたくさんの出来事があった。不思議なことに選挙前になると様々なことが起きるものだ。ビンラディンが出てきてみたり、最後の激戦区をターゲットにした、中絶や同性結婚の禁止など、キリスト教原理主義の倫理観をアピールもした。ビンラディンはこれ以上ないほどのナイスなタイミングで登場した。911の首謀者であることを自ら認めたのだが、あまりにうまく出来すぎているとは思わないだろうか?ブッシュの父とビンラディン一族が冷戦構造下で親しくしていたという噂もある。人々の心に911の恐怖がフラッシュバックし、当時の大統領はブッシュであったと思い起こさせたのではないかとくらい思っている。まさに戦争大統領の名に相応しい。それらが功を奏し、激戦区といわれた州を勝ち上がってきた。キリスト教原理主義に支えられたブッシュ政権と、イラクを拠点とした外国人テロリストはイスラム原理主義に支えられている。もはや、世界を舞台にして宗教戦争が繰り広げられていると言っても過言ではない。

言わば、国取り合戦の大統領選挙であるから、合衆国地図を共和党民主党に色分けすることができる。その図はまさに南北戦争の再来か、と思ってしまうほどきれいに色分けされてしまっている。カリフォルニア、ワシントンなどの西岸部と首都ワシントンDC、ニューヨーク、ニュージャージーなどの東岸の都市部は民主党が圧勝。一方、都市部に比べると田舎の内陸部は圧倒的に共和党が勝利している。さらに言えば、テロを警戒した都市部でケリーを支持し、そこまで警戒しない内陸部の州の人々がブッシュを支持している。あまりに皮肉な結果である。日本でも同じ事は言えなくない。前回の参院選でも、都市部では民主党が健闘したが、地方ではやはりまだ自民が強い。自民支持母体である農協の職員が、地方に分散しているという見方もあるようだ。

話は大統領選だけで終わらない。穏健派で知られるコリン・パウエル国務長官が辞表を提出した。イラク戦争では、「迅速、柔軟性」を重視する「ラムズフェルド・ドクトリン」が「圧倒的軍事力の投入」を主張する「パウエル・ドクトリン」に取って代わったのではないかと言われているのだ。ブッシュ大統領は強硬派で知られるが故の考察である。後任はコンドリーザ・ライス大統領補佐官に決まった。彼女はイラク戦争開始前、イラク大量破壊兵器の危険性を主張。先制防衛の必要性を説いた。

それだけではない。その翌日、ブッシュ米政権内で対日本政策の決定に最も大きな影響力を行使してきたアーミテージ国務副長官までもが辞任を表明したことが明らかになった。何かいやな予感がするのは自分だけだろうか。パウエルもアーミテージ共和党内でも穏健派で知られている。ブッシュが暴走しないだろうか。イラクが終わったらイランの核問題も控えている。それに加え、北朝鮮の核疑惑は一向に改善策も見えない状況だ。ブッシュ政権があと4年間続く。華氏911マイケル・ムーアの著書を鵜呑みにしたくはないが、どうしても行き先不透明に見えることが多い。中東が抱える問題はイラク戦争にとどまらず、イスラエルパレスチナ問題をも抱えている。911以前の人種差別撤廃会議(9月7日南アフリカで閉幕)でイスラエルアメリカは退席している。その直後である。2機の旅客機はWTCのツインタワーに激突した。あまりに無秩序なイスラエル寄りの政策は、大いにパレスチナの怒りを買った。アメリカは、いや、ブッシュはテロの脅威を知っていた。だが、問題視していなかった。イスラエル問題が引き金となって、911は起こるべくして起こったのかもしれない。

死をも恐れない人間が事実存在するのである。回教徒にとって、アメリカとの戦いは聖戦(ジハード)であり、戦死者は英雄なのだ。そんな外国人自爆戦士=イスラム原理主義のテロリストたちの温床となった国を、どれほどの兵力をもって侵略できようか。ベトナム戦争での教訓はこうだ。「俺たちは誰と戦っていたのだろう。共産主義という敵と戦っていたはずなのに、戦争が終わって気づいたらベトナムの市民と戦っていたじゃないか。」300万人以上が殺害されたベトナム戦争は文字通りの大量殺戮戦争であった。だが、湾岸戦争を含め、第二次湾岸戦争とも言うべきイラク戦争は勝手が違う。ザルカウィは各国の武装勢力にジハードへの協力を呼びかけている。海兵隊にとって戦車での市街戦が「アルティメット・インラッシュ」なら、自爆テロリストにとっての自動車爆弾は聖戦である。これでは、収まりがつくわけがない。早期解決の「ラムズフェルド・ドクトリン」もここではどうやら実力を発揮できないでいるのが現状だ。

ブッシュの戦争

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おい、ブッシュ、世界を返せ!

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